土器川の銀毛

尺伝説(大物記録)
讃岐水系  1990/9/30

この頃、土器川はよく釣れた。まだできてなかったビレッジ美合の前、谷田から川奥にかけて、下福家川、真鈴川、川東の中流部、自宅から近いこともあり休日に雨が降り始めるとよく出かけた。現在のようなちんけな枯れ川ではなく水量も豊かだったように思う。

今考えてみると、「よく釣れる」という理由だけで、渓相もパッとしない、渓流釣りとは程遠く人家の中を飽きもせずによく釣りに行ったものと自分のことながら感心している。

その日も、昼過ぎまで降った雨があがった後にドバミミズを掘り、まだ、幼稚園児だった息子を連れて土器川に向かった。何の気なしに、今はもう川沿いにない喫茶兼居酒屋「みちのく」の下手の大淵近くに車を止めた。

息子が川に落ちないように岩の平らなところに座らせて息子の行動を気にしながら釣り始めた。1投目、2等目当たりがない、いつもならすぐに餌に喰らいつくハヤさえも音なしの構え、水の中から異様な雰囲気が伝わってくるようにも思えた。

気を取り直して3投目餌が沈んだ瞬間に糸がスーと上流に持っていかれたかと思った瞬間に竿が満月に弧を描く何がなんだかわからないまま魚が動く方向についていくしか手立てがなかった。それでも息子が気になるため息子の方に目をやる「動くなよ、そのまま、そのま......」どれくらいの時間がたっただろうか、少しは浮いてきているがヤツはまだ悠然と淵の中ほどを泳いでいる。このままではこちらの負けは目に見えている。

息子も心配である。強引に水面に浮かせて空気を飲ませて弱らせて手前に引き寄せ浅瀬に誘導した。ヤツも最後の力を振り縛って逃れようとするが、もはや勝利はこちらのものである。
しかし、こちらは子連れのにわか仕立ての釣り師、玉網など持っている筈はなく、ヤツが目の前にまできた時に竿を捨てて抱擁作戦これがこうじてこちらの完全勝利だが全身ビショビショ 息子のところに魚を抱きかかえていき「ヤッター」息子も思わず「やった~」

よく魚を見ると見たこともない魚体、鱗と鱗の隙間にかすかに朱点が残っている。これが噂の降海型のアマゴ「銀化」だった。検寸の結果34cm


 

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