黄金週間 泊まりがけで釣りに出かけた。
1日目を終えて、相棒と2日目は何処の渓に入るのか相談をして大体まとまったところに「あんたら、釣りかい?」と宿の親爺が加わった。
宿に入ったときから気になっていたが、口ひげを長く伸ばした仙人のような風格の親爺だった。
「この辺りで釣れる渓は何処ですか?」と聞いてみると、2つ3つの候補をを上げて応えてくれた。「じゃ、あの渓は?」と明日入ろうとしている渓の名前をカマしてみた。
「ここらじゃ一番キツイ渓や、あんたらじゃ無理かも知れんぞ」と言ってきた。
意外な答えだった。
20年くらい前に釣った下流は揺る渓、地図を見ても直感的に大した傾斜を感じなかった。
「いやいや、加茂川のキツイ渓に行っているから大丈夫ですよ」と酔った勢いで大風呂敷を広げた。
「ほかは、何処に行くんじゃ?」
祖谷・那賀川・・・・魚梁瀬や海部まで話が合うのには驚いた。
この親爺、只者ではない!たぶん、親爺も同じ感覚を持ったらしく・・・・「
「今日は話が合う これワシのおごりや」と一升瓶を持ってきて場所を変えず2次会がはじまった。
「滝・ばっかしや」
大滝と大淵、滝を越えるとまた滝が現れてきやがる。滝の高巻きに脚力が疲れてきた頃、次は大岩のゴーロが待ち構えて今度は腕力を奪われた。
親爺の云っていたのは本当だった。
漸く渓が緩くなり、そろそろ源流域に入ろうとする手前で砂の上に水に濡れた明確な足跡が現れた。その先を見ると釣り人・・・・向こうもこちらに気が付いて、スタスタと斜面を這い上がり消えていった。ヤケに逃げ足が速い。ヘヤピンに車があることを知りながらの確信犯に違いないな。
キツイ区間を飛ばして緩くなった場所から入るとは「軟弱なヤツじゃのう」と捨てセリフ、黄金週間だし、少し上流で車道と交差するので仕方ないのか?
我々も斜面を這い上がり車道に出ると車があった。たぶん、さっきの釣り人のものだ。間隔を開けて上流を釣ると言うことか?
楽しみにしていた最源流部を諦めざるを得なかった。
渓と車道が交差している場所まで行って渓の上流を眺めた。
ブナの原生林がはじまり「ムチャクチャええ感じの渓やんか」
後ろ髪を引かれつつ帰路についたのは言うまでもない。
最源流域がどうなっているのかが気になって1年後に出かけた。
渓に入ると驚いた。
斜面にはブナの大木、その隙間を笹と下草が埋め、岩には苔が付いて一面が深い緑の世界が眩しい。その中を透明な水がゆったりと流れて、源流はこうあるべきだというイメージと重なる。
ピークまで標高差200mしかないので水量は知れているがこんなに豊かで深い森があるなら渇水時期でも安定しているのだろう。
アマゴはどうか?
チビが数尾、車道が近くを通っていることを考えれば仕方ない。
自宅から片道200km近くの距離、そう易々と行ける場所ではない。大して釣れる訳でもない、大物が出る筈もない。それでも、この原生林の渓は俺を惹きつけて、毎年必ず出かけてしまう。
竿を振りながら、歩くだけでも満足できる渓があることはじめて知った。
まぁ、釣りの看板を背負っているから1匹も釣れないのは困るけどね。
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