渓の回想録
吉野川支流 秘沢A谷 1998/9/27
吉野川支流 秘沢A谷 1998/9/27
この川には何度か来た事があったが、先行者があったり、林道の途中が土砂崩れになっていたりで余儀なく下流部の渓へ回避していたため最源流部に足を踏み入れる機会がなかった。
標高は1000m以上あるが、源流部と言っても車道(ダート)が川を横切っていて脇の車止めからすぐに渓に降りることができ、小さな橋下から釣り始めとなる。よって釣り荒れ感も否めないのであるが、釣り始めからすぐに現れる5mの滝をこえると2~5mほどの落ち込みを持つ中淵が連続する素晴らしい渓相となる。ここはまさにアマゴが釣れなくても風景と一体感になることで感性が和める渓なのだ。
上流の二又までは吉野川特有の小さめのオレンジの斑点をもつアマゴが釣れる。右支流は渓が緩く遡行できる距離も短い。ここも下流部と同じようなアマゴが釣れる。アマゴの数はやたら多く、釣りをすることに関しては楽しむことができるが型は小さめで針掛かりするのは6寸までで最大でも7寸~8寸程度である。
左支流は二又の上に緩い小滝(3m)があり滝横を這い上がり川中まで立ちこんだ枝を払いながら遡行すると下流部より小規模な淵が連続するようになる。 ここも釣りあがってくるアマゴは下流部と同じ吉野川特有のアマゴが釣れるが数は極端に少なくなる。淵の連続帯を過ぎると渓はザラ瀬となりアマゴは全く釣れなくなる。水量も伏流しているのか殆ど無くなってしまい右上(10m程上)に林道が見えはじめることもあり、普通の釣り人であればたぶん、このザラ瀬で終わりにするだろう。しかし、私の釣りの目的は魚止めの確認にあるため水の流れが少しでもある限り遡行を続けた。
最源流魚止めの妖精
やがて、川底に岩盤が現れて伏流も止まり、それなりの落ち込みの後に淵が現れだした。同行していた慶三の竿が大きく曲がった。強い引きであったが淵が小さかったため割合簡単に上がってきたアマゴは9寸以上あった。しかし、釣りあがったアマゴの大きさよりも、魚体の美しさに二人とも言葉を失った・・・・
今まで見たこともない色鮮やかなアマゴが玉網の中に収まったのである。
「きれいだなぁ」
「うん、きれいだ・・・・」
しばらく釣れたアマゴに見とれていた。
腹部の黒い斑点がはっきりしていて、各部のヒレを縁取った赤が鮮やかで透明感があった。これは天然印、また何よりもアマゴ特有の朱点(朱色というよりも赤色に近い)が大きく不揃いで中には流れているものもある。朱点の数が多いのも特徴である。下流部で釣れたアマゴと全く違うことから察するに、この渓の在来種に違いないと思った。
慶三さんが釣り上げた朱点が鮮やかで赤いアマゴ、朱点が多いアマゴは何度か釣ったことがあるがこれほど鮮やかな朱点が流れるアマゴは初めて
次の淵で今度は俺の竿が曲がった。 玉網に収まったアマゴは、慶三が釣り上げたアマゴとほぼ同じの大きさ(欲目で云えば数ミリ大きい) 体高があり先程の魚体にも増して美しい魚体であった。
まさに、渓の妖精に他ならない。
初めてアマゴを釣り手にした時に、魚体のもつ美しさへの憧れのようなものを再び感じた。林道と交差する前の小さな落ち込みで小さめではあるが同じようなアマゴが釣りあがった。放流魚に住処を追われ源流部の限られた区間でそっと密かに生きている在来種のアマゴががいつまでもこの渓で暮らせることを願わずにはいられず流れに返してやった。
この美しいプロポーション
当サイトのロゴマークとなっています。
当サイトのロゴマークとなっています。
殆ど水が無くなった淵で針掛りした一尾
少し小さめではあるが超天然の在来種
再び逢えることを願いながら
記念写真を素早く済ませ流れに返した。
少し小さめではあるが超天然の在来種
再び逢えることを願いながら
記念写真を素早く済ませ流れに返した。
下流で釣れたアマゴと全く違うことから渓の在来種を意識するようになり源流を詰めれば在来種に逢えるかも知れないと考えが支配的になり、源流を彷徨い魚止めを探る現在の源流釣りスタイルになったのはこの時からだ。
現在、岩盤の淵はガレに埋まり妖精アマゴが姿を消したことを残念に思う。
現在、岩盤の淵はガレに埋まり妖精アマゴが姿を消したことを残念に思う。
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