二度と行きたくない渓

渓の回想録
安田川支流 長滝川  1997/3/1~3/2

何度か長滝を目指して安田川上流に車を飛ばした。
あるときは、早く到着し過ぎて、陽が上る寸前まで宴会をしていて今回は長滝は無理だと判断して比較的緩やかな須垣谷川へ、またあるときは後から来た地元の釣り人に長滝釣行の大変さを諭されて小心者であるがゆえ上流部の支流へ逃げた。(この支流もかなりきつかった)

そんなこんなではあったが、行きたくてもなかなか行くことができない安田川支流長滝川への思いが日増しに強くなっていくばかりであった。長滝に関する情報を集め、毎日の様に二五・一の地形図を入念にチェックし、遡行で疲れた体を癒すために馬路温泉の宿泊を予約、3月1日解禁前日いざ出発。

今回も車止めには早めに着いたが、前々回の教訓があるため車内宴会を早めにきりあげ、しばしの眠りについた(早めといっても午前3時はとうにこえていた。・・・・・・ちゃんと教訓が生かすことができない懲りない面々である。)

午前6時起床、準備を整えて7時出発、本流との合流点から高度50mの上に電力の取水堤がある。ここからパイプラインに水を引いているコンクリートの取水道を辿り取水堤まで重い足取りで歩いた。取水堤をこえると水量がでてきて、小さなアマゴが走り出す。「待ってました」とばかりに竿を出し釣り始めた。6寸~7寸のアマゴが適度に釣りあがって楽しませてくれた。
後で考えるとこれが大きな間違えであった。やがて小滝が連続して現れだし、いよいよ長滝の核心部に突入し高度にして100~150mの大高巻きが始まっが、高巻きルートが全くわからず鹿の糞を頼りに右側の小尾根沿いのガレ場に取り付いて高度を稼いだ。

長滝の大滝の連続体の水の流れ落ちる様は雄大で「長滝そのもの」であった。途中、小尾根から滝下に降りれそうなルートがあったが20mのロープ2本をいっぱいに伸ばし降りようとしたが最後の岩肌で渓まで届かず断念した。ここでもかなりの時間を浪費してしまった。
やっとの思いで長滝の滝上(高度660m付近)の水面に到着した時刻は11時前で2時間近くの大高巻きであった。

滝上は、ところどころに5~10mの滝が現れるものの比較的緩やかな渓である。何よりも渓が明るく開けていることがこれまでの苦しい高巻きを強いられた我々にとっては嬉しかった.
魚影はすこぶる濃く8寸~9寸が混じる。快調に釣っていきたいところであったが、下流部で時間を費やしているため目的の二又まで早足でいい場所だけを釣りあがった。それでも、二又まで間に3人で80匹近くの釣果があった。(今夜の宴会用に大きめを20匹程度キープ)

午後3時二又に到着、帰りの林道は二又右支流を横切っているため簡単に見つけることができた。(昔、森林軌道があったらしく錆びた線路が所々に残っていた。)
これで帰りは楽勝だなぁと思っていると谷筋になっている部分が崩れて道がなくなっている。これくらいなら何とかなると2、3箇所やり過ごすと次に30~40mの幅で川底まで崩れた地点に出くわす、川底まで100m以上あり足を滑らせば岩もろとも転がって命はない。崩れている場所を2、30m高巻きして比較的足場の良い場所からロープを使って渡りはじめたが足元が滑ってバランスをくずしロープにしがみ付いた。ロープがなければ危ういところだった。
それからも数箇所谷底まで大崩しているところがあり、そのたびにロープを出し何とかやり過ごした。そうこうしているうちに陽は西へ西へ傾きだす。まだ、車道に出るにはかなりの距離が残っている。仕方なく休みも取らず細い林道を小走りに先を急いだが陽は無情にも西の山に落ちてしまい、あたりは急に薄暗くなってしまった。

「3月こんな所で夜を過ごすのはいやだなぁ」最悪の状況が頭の中をかすめる。
かなり急いで走って疲れがピークとなりヘッドランプをリュックから取り出すため林道に腰を下ろした。煙草に火をつけて辺りを見渡すと薄暗い木々の隙間から人造物のようなものが目に入った。立ち上がってよく見ると工事用の仮小屋であった。なんとその前には林道工事がそこまで延びているではないか。
「助かった?」  
全く予期していなかった林道の出現に大喜びで工事小屋まで降りていきその場にへたり込んだ。もう少し遅ければ新林道を発見できずに旧林道をヘッドランプを頼りに彷徨うことになっていただろう。完全に暗闇となった長~い林道を本流の車道まで歩き、車止めに着いたのは7時前だった。二又から約4時間何とか無事帰還することができた。このときはさすがに「長滝には二度ときたくない」と思った。

着替えを済ませて、馬路温泉のログハウスにチェックインしたのは8時、荷物を下ろして、温泉に入り、酒宴の準備を整え、宴会が幕を開けたのが10時近くになっていた。
「今日はほんとにご苦労様、まずは乾杯」 
「ところで、明日は、どうする?」
「折角ここまで来たのだから、室戸のアマゴでも確認に行く?」
「ここから3時間くらいかかりますよ」
「じゃやめますか・・・・・・」
「明日起きてから考えよう」

 朝、馬路温泉を出たのは9時過ぎと遅くなってしまったが、そのまま室戸の渓へ向かう。
 釣りだけに関しては元気印の三人衆であった。


 

コメント

タイトルとURLをコピーしました