遍路の谷

渓流釣り遡行記2006
渓流釣り遡行記2006  2006/2/11 曇り
  愛媛の渓 T川

高知を出発するときの気温は0℃でフロントガラスが凍りついていた、スパイクの磯靴を取り出して裏を確認すると鋲が何本か抜けたり曲がったりしているが、今日1日ぐらいは使えそうなので車に積み込んだ、心配していた気温だが愛媛県へ入ると一気に8℃に上昇してなんとかなりそうである。

副会長とは2月に釣行するのは始めてである、先週渓師会のイベントでの打合せで今回のT川の事が話題になった、共通点は「気になる谷」だった。

この谷は標高が低く雪の心配が少ないが、入り口から連漠の滝になっているので一人ではちょっと厳しそうであった、副会長も気になっていたそうで遡行計画を立てるのに時間はかからなかった、短い谷なので少し下流のI谷と合わせて2本を新規開拓でやっつける予定だ。
T川出合の渓相
7時、お寺への参道入り口のお地蔵様に手を合わせてから出発、最初のヘアピンから谷へアプローチすると早速大渕が現れた、両岸は一昨年の台風による洪水で大きく浸食されている、緩んだ石の積み重なりは何時抜け落ちるかも知れないので確認しながら慎重に下降する。
最初の渕で5寸がスレ掛り、アマゴがいるのが分かって一安心、次の渕ではハリには掛からずに巻き付き、なかなかハリに乗せるのが難しい。
入り口からこんな渓相
橋を越えると谷と参道が接近して緩くなった、
少ない良渕で副会長に7寸がヒットした。
良渕だったがアマゴはでなかった
大滝、写真は下段の滝15m、
見えないがその上にも15mの滝が待っていた。

二人並んで落ち込みに餌を入れた、広い川で竿を大きく振り回すのも面白いが、少ない良渕を分け合って釣るのは源流釣りの楽しさの1つである。

高巻きは右側の参道を使った、やがて右支流との出合いに到着、予定では先に右支流の様子を見ることにしていたが、あまりにも水量が少ないのでパス、そのまま遡行すると想像してた通り大滝が出現、副会長が中段の渕まで上り1匹釣ったのが見えた、上段の渕へは手がかりが無くて上れなかった。

「右から巻きますか?」、「そうっすね右からいきますか」、大滝に出くわし高巻きルートを相談して決定する、厳しい登攀の最中にも細かなルートのやり繰りをしながら慎重にクリアーしていく。滝は大きく2段になっていた、中段へ降りようとロープを出していたら「向こう岸に渡るの無理があるんじゃないの」と副会長、よーく見るとロープを使って降りるテラスに隠れて岩溝があり、そこを水が流れ落ちて滝になっているのが分かった、そのまま降りてロープを回収したら戻れなくなり、岩溝を飛び渡らなくてはいけないところだった・・・一人でなくて良かった。

無事滝上に到着した安堵感に胸を撫で下ろしながらも、はたしてこの先でアマゴが出るのだろうか、もしかして魚止めの滝だったかも知れないし、まあ釣ってみなきゃ分かりません、などと座り込んだまま早くも先のことを考えたりするのは、源流釣りの楽しさの1つである。

 



 
滝上の渓相

予想どおり緩やかな流れだが、石垣を積んだ畑跡の植林が谷に迫ってお世辞にも美しい渓とは言えないのだが小ぶりながらもアマゴが出てくる、やがて前方が明るくなって伐採跡が見えてきた、伐後3年ぐらいか。

アマゴが出るのでそのまま突入する、小滝と渕が現れて楽しませてくれたが再び植林が現れ、その上流には大伐採が進行中で谷を横切って索道が架けられている、切った木をそのまま逆さに吊って搬出している最中だった。

大伐採跡へ踏み入る

ほぼ向かい合わせで細い支流があった、「支流がありますねー」、「地図で確認しますか」、副会長が2万5千分の1地形図を取りだして現在位置を分析している、「これが右支流でこれが左支流、だから現在位置はここらあたり」、と水線の無い支流を等高線から読み取っている。高度計は気圧や温度の変化に影響されて誤差の生じる場合があるので、こうやって特徴のある地形が出た時に確認しているのだ。 知らない山で迷わないための工夫と実戦の繰り返し、そして遡行技術を盗むこと、これらも源流釣りの楽しさの1つである。

そろそろ魚止めが近いような感じになってきた、水量も少なくもう限界じゃないのと思われる小渕でアマゴがヒットする、こんな所にも魚が棲んでいる、もし大場所でもあれば・・・と最後まで期待を抱かせてくれる、これも源流釣りの楽しさの1つである。

とうとう魚も止まって魚止めは先ほど副会長が釣った小渕だったと分かった。索道下の谷は伐採したばかりの杉の木で埋まっていたが上流がどうなっているか様子を見るため斜面を登った。伐採跡は源頭を含めて広範囲に広がり完全に皆伐されていた、谷は少し上流で何本にも散って終わっているのが見えた。

納竿して山道を少し下る、「昼飯にしますか?」、「さんせーい、腹減ったー」、伐採跡の開けた谷縁で昼飯、カップ麺のビニールを爪でホジホジしていると、「それは裏を破るんよ、そのシールは蓋が開かないように貼るためにあるんよ」と副会長のアドバイスが入った、「ははーんそうか、ここをねフムフム、シールを貼ると検寸定規を乗せる必要ないですな」。

期待していた源流部はこのとおり、知っておれば来なかったのにと言ってしまえばそれまで、知らないから夢も希望もあるのだ、新規開拓で何百もの渓を遡行する、そして片手に納まるほど数少ないお気に入りの渓を見つけて、その渓に惚れ込んで自慢する、渓を大切にしない訳があるものか、そんな釣り方を今教わっている。

副会長が湯を沸かしてくれて先にわたぐじのカップに注いでくれた、「ありがとうがざいます、感謝でーす」、もちろんカップに穴が空いていないかは確認しました(^^。

コンビニのおにぎりを取りだして手順書を読まず適当に開けていると、海苔が取れてビニールが残りビニール巻きになってしまった、2個目は失敗するまいと手順書をよく読み①→②→③と引っ張って開ける予定だったが、初期段階の①でつまずいてしまった、爪で摘んで引っ張ったが剥がれない、無理に引っ張っていると副会長から再度のアドバイス「それわね⇒の方向にグルッとまわすように剥いでいくんよ」、「ほほーーーッなるほど、しかし最近の商品は爪技が複雑でなんともなりませんわー」と言い訳をしたのだった。

あったかいカップ麺を啜りながら遠くの山並みを眺め、今年これからの釣りの話をする、これも源流釣りの楽しさの1つである。

傍らにはイタドリ(嶺北では”いたずり”という)の殻が沢山残っていた、春が来ればさぞかし楽しい山菜採りができるだろう、これも源流釣りの楽しみの1つである。

撤退道は2ルートあったが、送電線の管理道を使って下り、お寺へと登って行く参道へ出ることにした。石畳とコンクリート敷きの参道は台風の影響で大きく壊れていた、この坂道はその昔弘法大師が喘ぎながら登ったとき、まるで体が燃えるように熱かったのでモエ坂と命名したそうだ。

T川の若アマゴ、「頑張って沢山の子孫を残してくれよーたのむでー」
渓流釣り遡行記2006  2006/2/11 曇り
  愛媛の渓 I川

昼からもう1本気になっていたI谷へ向かう、谷の入り口の発電所近辺の谷を見て意気消沈、台風の災害復旧工事なのか谷の中でユンボが動いて車道は通行止めだった。

それでも気になっていた谷なので上流へ歩いて上がっていく、やっと水が流れる音が聞こえてきたので藪を抜けて谷へ入った。

そこそこの水が流れて魚影もあるのだがなかなか1匹が釣れない、副会長がやっと釣り上げたアマゴを最後に水量が極端に減って釣りにならなくなった、「もうここまでとしますか」、「OK・・・バラシ3回のボウズなんだけど(TT)」。

今日の釣果はパッとしなかったが、「気になってしかたなかった谷を2本遡行することができたのでよかった」とも言えるのだが、「気にする楽しみが減った」とも思えて少し複雑な気持ちになってしまう。

いずれにしろ、新規開拓で釣り歩くのは渓流釣りの最大の楽しみだ、地図を広げて渓相を想い描いてみる、現地まで何時間?、谷の規模は?、アプローチする林道は使えるだろうか?、撤退道はどの辺か?、全行程に何時間かかる?滝は幾つぐらいあるだろうか?、装備をどうする?一人で大丈夫か?周囲の樹林は天然林それとも植林?、水量は?、地質は?、岩の種類は?、尺上の出る可能性は?。

車止めで期待に胸膨らませて夜明けを待つ、イメージ通りの釣りができたときの喜びは大きい。

しかし期待とは裏腹に壊れてしまった谷、ゴミが投げ込まれた谷、水なし谷、アマゴの棲まない谷、先行者が居た谷、釣り荒れた谷などに入ってしまうことのほうが多い、釣行した谷の半分以上はそんな谷なのだが、それでも新規開拓で飛び回りたいと思ってしまう。

さーて いよいよシーズン到来、今年はどんな感動が待っているのだろう。

当日データ
  釣果:二人で34匹
渓流釣り遡行記2006
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